『軋轢』〔1〕

(再録、旧題『MAKE SOME NOOOOOIIIIISE!!!!!!!!!』)


「将来の夢は・・・
 スナックの店長になることです・・」


三者面談。
低い声でボソリとつぶやいた和夫。


「そうか・・・
 スナックの店長か・・」


時は午後4時半。
すでに暗くなりかけてるが、
教室の蛍光灯はつけてない。


教師の鈴木はパチンコのことで頭がいっぱいで
和夫の話は全然聴いていない。


和夫の母は何もしゃべらない。


「じゃあ、今日はこのへんにしておきましょう。」


と鈴木は言うと、和夫と和夫の母が立ち上がる前に
教室を出て行った。


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校舎裏の階段に座り込みタバコをふかす鈴木。
吹奏楽部のクラリネットをチューニングする音。


鈴木がクラリネットの音がする方を何の気もなくぼーっと見ていた。
人の気配に気づき横を振り返ってみると、いつの間にやら和夫が鈴木の前に立っていた。
一瞬驚いた鈴木に向かって和夫は口を開いた。


「将来の夢は・・・
 スナックの店長になることです・・」


うつむきながら半分涙目でぼそりとつぶやく和夫。


「そうか・・・
 スナックの店長か・・」


鈴木はタバコを靴でもみ消し、その場を去った。


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「んがー、腹が減ったなぁー」


そう言って、鈴木は校内の菜園に植わってあった芋を掘った。食った。


「あー、やっぱり生は最高だぜ」


と口には出したが、実際は不味くて後悔している。


「あ!鈴木!
 何、芋食ってんだよ!」


校庭の方からジャージ姿の北関東訛りの女性が走ってきた。


彼女は新人教師レミギウスである。


もちろん渾名である。
鈴木がつけた渾名である。


顔がレミギウス・モリカビュチスに似てるため鈴木がそう呼んでいるが、鈴木以外誰もレミギウス・モリカビュチスのことなど知らないため、鈴木しかそう呼んでいない。


「鈴木!
 何、芋食ってんだよ!」


再びそう言って、笑った。
汚い笑顔で笑った。


「ハッハッハッハ!
 いつ見てもお前の笑顔は汚いなぁ!
 まあ、お前もこれでも食え。」


そう言って、もう一つの芋をレミギウスに差し出した。


[つづく]