『昨日は忘れた。明日は知らない。(またの名を『柏餅』)』〔1〕(再録)


「ああ……
 やっぱり俺には高層ビルの36階に
 あるような清潔なオフィスより
 鼻毛がすぐ伸びるきたねぇ工場(こうば)が
 良く似合うぜ……」


山田恵子(仮名、28歳・男・独身)は肝臓にダメージを与えそうな緑色の液体を飲みながら吐き捨てるように言った。


そして部屋の呼び鈴が鳴った。


玄関の覗き窓から覗いてみると気の弱そうな身長の低い中間管理職風のオヤジが立っていた。


普段は居留守を使う恵子だが、何故か今日は気紛れにドアを開いてみたくなった。


「あのぉ……新聞取ってもらいたいんですけど……」


新聞勧誘員か……
新聞勧誘員って言ったら○○○風の兄ちゃんが多いが今日は珍しいな……
と思いつつ、やっぱり新聞を取る気は毛頭ない恵子は玄関口に出て叫んだ。


「帰れ!俺は新聞と新聞勧誘員が大嫌いなんだ!
 おまえなんか○○○で引越の仕事でもしろ!
 キエェェェェエイ!」


気の弱そうな中間管理職風のオヤジは怯え震えただでさえ低い身長がさらに低くなったように見えた。


「今日一件も新聞取ってもらえてないんです……
 このまま戻ったらもう食べていけないです……」


中間管理職風のオヤジは涙目で、ほとんど聞き取れない小さな声でそう言った。


落ち着いてきた恵子はちょっと考え、そして


「あ、ちょっと待て。」


とオヤジに言い部屋に戻った。


2、3分たった後、再びドアを開けた恵子。


「新聞は取らないが、おまえにはこれをやろう。
 昨日職場のババアからもらったんだが俺は柏餅が嫌いなんだ。」


と言って恵子は中間管理職風のオヤジの手に柏餅を置いた。


よほど腹が減っていたのか、中間管理職風のオヤジは柏餅をその場ですかさず口の中に押し込んだ。


 「モグモグ……
  モグモグ……
  ヾ(@⌒¬⌒@)ノ ウマヒィ!」